魚媛

〜第4話〜

 

 電車を降り、自宅のマンションまでとぼとぼと歩く。熊谷からたった一駅なのに、周りは黄金色の麦畑が広がっている。麦秋だ。かすかに吹く風が麦の穂を揺らし、金の絨毯が艶色を変える。やがて麦畑が姿を消してゆくと、代わりに桑畑が出迎える。枝の根元に黒い実が房を付けているのが見える。それを横目に行き過ぎると、今度は鬱蒼と茂る木立ちが続く。朽ちかけた古い垣根から、小さな稲荷の祠が覗く。祠には白い陶器で作られた狐が何十体も置かれていた。衣緒は、その祠が小さい時から気になって気になって仕方がなかった。怖い、とは違う。幼い頃はよく、息を殺して垣根越しに祠を覗き込んでいた。だが、毎日見かけるその祠が今日は何だか恐ろしく思え、足早に通り過ぎる。そこを抜けると、ようやく我が家が見えてくる。衣緒は思わずほっと息をついた。
 エレベーターで階上へ上がり、半ば走るようにして玄関まで辿り着く。鍵を開けると、柔らかな明かりの間接照明が出迎える。もう父は帰っているようだ。そこで、今朝父親と喧嘩したことを思い出した。どうしよう。どんな顔で会えばいいのか。衣緒は恐る恐る玄関に上がった。
「……ただいま」
 そっと声をかけると、キッチンから「おかえり」と返ってくる。鞄をソファに置き、キッチンを覗きこむと思わず目を丸くする。父は汗だくになって鍋に湯を沸かしていた。
「ああ、晩ご飯もうちょっと待ってくれ」
 大粒の汗を拭いながら草平はパスタの袋を取り上げる。
「今晩はカルボナーラだよ。学食で見かけたら食べたくなってね」
 その言葉に、衣緒の表情に満面の笑みが満ちてゆく。カルボナーラは自分の大好物だ。
「お皿用意しておくね」
「ああ」
 手洗いをするために洗面所に向かう娘の後ろ姿をちらりと見やり、草平はほっと安堵の溜息をつく。相手の機嫌を気にしていたのは父親も同じだった
 ひとまず一人分のカルボナーラが出来上がり、食卓にサラダと共に並べられる。草平の前には缶ビールと刺身こんにゃく。
「父さんは後でいいの?」
「ああ、先に食べてて」
「じゃあ、いただきます」
 嬉しそうにフォークを取る衣緒の表情に父の表情も和らぐ。これまでも、ちょっと喧嘩をしてもすぐに仲直りしてきた。これからも二人で穏やかな時間を過ごしていきたい。それが、衣緒と草平の願いだ。
「おばさん、また来るって?」
「うん。衣緒が駅ビルで五家宝を買っておいてくれて良かったよ。喜んでたよ」
 幹恵が熊谷銘菓を好んでいたことを覚えていた衣緒は、満足そうに頷いた。
「良かった」
 衣緒は、夕刊を読みながらビールを呷る父親をじっと見つめた。江ノ島を諦めて、浦安のテーマパークへ行くことになったと報告しなければならない。だが何となく言いだせず、黙ってカルボナーラを食べる。そして、父が箸でつまんだ刺身こんにゃくを目にしてふと口を開く。
「ねぇ、父さん」
「うん?」
 父は夕刊に目を向けたままだ。
「父さんは大人になってから魚アレルギーになったんだよね」
「……ああ」
 思わず目を上げる。衣緒はまじまじとこんにゃくを見つめている。
「お魚ってどんな味がするんだろう」
 思わず缶ビールをこん、と音を立ててテーブルに置くと、衣緒はぎくりと体を震わせた。
「……肉ほどうまくない」
 草平は目を伏せながら呟いた。
「よほど脂がのっていなければ、淡白な味だ」
「……ふぅん」
 そう鼻を鳴らしながら、衣緒はグラスに麦茶を注ぐ。
「……どうした?」
「父さんって刺身こんにゃく好きじゃない? やっぱりお魚が食べたいのかなぁって」
「別に――、そうじゃない」
 思わず言葉に詰まりながらも返す。衣緒は、生まれてから一度も魚介類を口にしたことがない。それは草平の思惑だった。自分も食べる気が失せて久しい。そのため、親子共々魚介アレルギーということにしている。そのため、外でも衣緒が魚を口にする心配はなかった。
「ただ、こんにゃくだから太らないと思ってな」
「父さんはむしろ太った方がいいよ」
 そう言って軽く睨みつけられ、草平は苦笑しながらもう一度ビールを呷る。だが、
「私もお魚食べてみたいなぁ」
「衣緒」
 途端に野太い声を上げると、衣緒は大きく手を振った。
「大丈夫。アレルギー怖いもの。食べないって」
 そう言ってパスタを頬張る娘に草平はまだ顔をしかめたまま息をつく。そして、思い出したように目頭を押さえると不快そうにぼやく。
「やっぱり、夕方になると途端に見えなくなるな……」
 やおら立ち上がり、マガジンラックの隣に置いた自分の鞄を探って眼鏡を取り出す父親に、衣緒が顔を引きつらせる。
「え、やだ、まさか老眼鏡?」
「しょうがないよ。父さんももう五十過ぎたんだし」
 眼鏡をかける草平の様子をじっと見守ると、衣緒は少し口を尖らせて言い放つ。
「かっこいいのにしてよ。いや、今度一緒に見に行こ。選んであげる」
「ええ?」
 迷惑そうに苦笑しながら返しつつも、内心は嬉しかった。息子ならこうはいかないだろう。思わず口許をゆるめながらテーブルに戻ろうとした時。ソファに投げてある衣緒のトートバッグから文庫本がはみ出しているのを見つける。
「またえらく渋いもの読んでるな」
 そう呟きながら文庫本を取り上げる。
「中也か」
「うん」
 素っ気ない返事。
「授業でやってるのか」
「ううん。図書室ですすめられたの」
「里村くんか」
 雄輔の名に衣緒が驚いて顔を上げる。
「仲いいんだな。父さん名前覚えたぞ」
 どこか嬉しそうにページをめくる父に衣緒は少し顔を赤くする。
「……クラスメートだし」
「そうか」
 老眼鏡越しであっても、詩集を眺める父の横顔は文学者の眼差しだ。そんな父が衣緒にとっては自慢だった。
「詩人なら朔太郎が好きだけど、中也も悪くない。里村くん、いいセンスしてるな」
「もう。別にいいじゃない」
 むずがゆそうに文句を言ってくる衣緒に思わず笑うが、衣緒は顔を歪めると片手をテーブルの下に伸ばす。そしてしばらく背を丸めてもぞもぞしている。
「衣緒?」
「もう……、痒い……!」
 草平が首を傾げてテーブルの下を見やると、衣緒の手が足首を掻きむしっている。
「やめなさい。血が出る」
 眉をひそめてたしなめるが、衣緒はいらいらした様子で足首を叩く。
「痒い……」
「クリームがあっただろう」
「うん……。先にお風呂入ってくる。上がってから塗る」
 そう言って衣緒は食べ終えた皿をキッチンへ持ってゆく。そのまま風呂場へ向かう音を聞きながら、草平は残りのビールを飲み干した。暑いから汗で肌を傷めたのだろうか。そんなことを考えながら席を立ち、自分のカルボナーラを作ろうとキッチンに向かった時。
 はっと振り返る。衣緒が座っていた椅子。その脚元に白い粉が散らばっている。その光景を目にした途端、胸がどくんと波打つ。そっと歩み寄ると、粉がきらりと光る。草平は思わず椅子を蹴倒すと膝を突いた。そして、震える指先で粉に触れる。
 衣緒の肌から剥がれ落ちた皮膚。それに紛れて光っていたのは、丸く、薄く、透明な破片。スパンコールのような虹色の光沢に、草平の顔から血の気が失せてゆく。
「……鱗……」
 草平は、譫言のように呻いた。

 あれは、衣緒がまだ三歳ぐらいの頃。夕食を作っていると、衣緒がべそをかきながらキッチンに飛び込んできた。
「とうさん、いたい! ちぃでた!」
 泣きながら訴える娘の手が血に染まっている。
「どうしたの!」
 慌てて濡れた手を拭うとしゃがみ込む。
「かゆい……。かゆいよぅ……!」
 しゃくり上げながらもなおも掻きむしる衣緒の手を押さえ、抱え上げてリビングへ連れてゆく。
「いつから痒くなったの」
「さっきから……」
 ソファに座らせ、手近にあったティッシュで傷口を押さえると、草平はぎょっとして言葉を失った。皮膚の下から透けるように灰褐色の鱗が浮き上がり、それが抉れて血を流していたのだ。薄い皮膚がぼろぼろになってまとわりついている。これが痒いのだろう。かゆい、かゆいと泣く衣緒の頭を撫でると、薬箱を引っ張り出す。
「お薬塗ろう。すぐ治るよ」
 その前に消毒しなければ。ティッシュに消毒液を浸してからそっと傷口にあてがうと、激痛に泣き叫ぶ。
「いたぁい! いたいよぅ!」
 足をばたつかせ、父親の顎を蹴る。
「じっとして、衣緒……! すぐ痛くなくなるから」
 可哀想だが膝を押さえつけ、手早く消毒し、傷薬を塗る。小さな手で顔を覆い隠し、体を揺らして泣きじゃくる娘に思わず胸が詰まる。
「ほら、終わったよ。すぐ治るよ」
 衣緒はまだしゃくり上げ、父親にすがりついた。草平はその小さな背中を抱きしめることしかできなかった。
 その日の晩。衣緒を寝かしつけてから草平は姉に電話をかけた。
「姉さん……。衣緒が、足が痒いって掻きむしるんだ。どうしたらいい」
 疲弊しきった弟に、幹恵は心配そうな声色で答える。
「保湿クリームを塗るといいわ。ただ、肌が弱いかもしれないから、無添加の天然ものを選んであげて」
 草平は手許のメモ用紙に「無添加 天然」と走り書く。
「それに、ひょっとするとアトピーかもしれないわ。一度皮膚科に行ってみて」
 皮膚科。脳裏に浮かぶのは、脛に刻まれた鱗模様。草平は額を押さえて溜息を吐き出す。
「……落ち着いたら行ってみる」
 だが、皮膚科は無理だ。自分でどうにかするしかない。
「大丈夫? 来週そっちへ行くから、何かいるものある?」
「ああ、料理を教えてくれ。子どもが、喜ぶような……」
「わかった。いくつかレシピ書いておくわ」
 電話口でもう一度溜息をつく弟に、幹恵は居ても立っても居られない様子で言葉を継ぐ。
「草平も体を壊さないようにね。あの子にとって、父親はあんただけなのよ」
 その通りだ。草平は目を眇めて唇を歪めた。人魚の血を引く娘の身に起こる出来事は、すべて自分のせいだ。それを背負って、生きていくのだ。脳裏に、衣緒の屈託無い笑顔が浮かぶ。
「……姉さん、いつもありがとう」
 それから数日後、草平は弾む心を抑えながら保育園へ衣緒を迎えに行った。
「衣緒」
 手を振ると、衣緒は「とうさん!」と元気良く声を上げて飛んできた。
「いい子にしてたか?」
「うん!」
「よし。いい子にしてたから、今日はお土産があるんだ」
 お土産という言葉に衣緒は大はしゃぎで父親に抱き着く。
「おみやげなぁに!」
「お家に帰ってからね」
 帰宅すると、草平は膝を突いて衣緒に紙袋を差し出した。
「開けてごらん」
 わくわくしながら満面の笑顔で袋を探る衣緒。取り出したのは、薔薇の花を象った赤い容器だった。蓋の中央にはラインストーンが埋め込まれ、きらりと光を弾く。
「わぁ! きれい!」
 衣緒は大喜びで足をとんとんと踏み鳴らした。
「これはね、本物の薔薇のエキスが入ったクリームだよ。これからは、足が痒くなったらすぐにこれを塗るんだ」
「あけて! あけてみて!」
 言われるままに蓋を開けると、ふんわりと上品な薔薇の香りが立ち上る。
「いいにおーい!」
「いい匂いだね」
「ねぇ、ぬってぬって!」
 草平は嬉しそうにせがむ娘に微笑みながらクリームを取り、脛に擦り込んでやる。
「いいにおい! きもちいい!」
「衣緒、約束だよ。痒くなったら、掻いちゃう前に塗るんだよ」
「うん!」
 衣緒はきらきら光るつぶらな瞳で見上げてきた。
「とうさん、ありがとう!」
 思わずクリームを床に起き、衣緒を抱きしめる。
「とうさん、くすぐったぁい」
 父親の髪が頬をくすぐり、衣緒は笑い声を上げた。いじらしい。衣緒が愛おしくてならなかった。これから衣緒の体にどんな異変が起こるか、見当もつかない。それでも、何があっても守ってみせる。父親として、最後まで。
「衣緒……、ずっと父さんと一緒にいような」
「うん」
 衣緒は父親の髪をくしゃくしゃ撫でた。黒かったはずの髪には白いものが混じっている。
「とうさん、しろいかみがあるよ」
「うん」
「このまましろくなっちゃうの?」
 父親は答えなかった。
「とうさん?」
 衣緒が呼びかけると、自分を包み込んでいたはずの父親が姿を消す。気がつくと周りは真っ暗闇だ。
「……とうさん?」
 辺りをきょろきょろ見渡す。耳を澄ますと、遠くからざわざわとした音が聞こえてくる。規則正しい、低い、引きずるような音。そして、目の前の暗闇がゆらり、ゆらりと揺らめく。恐る恐る足を踏み出すと、足が冷たい水に濡れる。
「ひゃっ……」
 慌てて後ずさる。と、同時にしょっぱい香りが鼻をつく。何の匂い? 衣緒は顔をしかめ、首を巡らす。
「……とうさん……、とうさん!」
 その時。暗闇から黒い手が伸びると衣緒の肩を掴む。
「ひゃ……!」
 引きずり倒され、猛烈な勢いで水際へ引き込まれる。衣緒は悲鳴を上げた。
「やだ!」
 手足をばたつかせるが、黒い手はいくつもいくつも伸びてくる。
「いやだあ! いや! とうさん!」
 もがき、身をよじって声を限りに叫ぶ。
「たすけて! とうさん!」
 すると、大きな手が衣緒の体を抱き上げた。

「父さん……!」
 はっと目を開く。と、薄暗がりの中、心配そうに見つめてくる父親の顔があった。
「……大丈夫か」
 低い声で囁かれ、衣緒はごくりと唾を呑み込んだ。
「……うん」
「久しぶりだな、うなされるのは」
 衣緒は額の汗を拭うと溜め込んだ息を吐き出す。
「……大丈夫」
「水飲むか」
「うん、ありがとう」
 差し出されたグラスの水を飲み干すと、ようやく人心地がつく。
「……ごめんね。起こしちゃったね」
「大丈夫だよ」
 草平は衣緒の頭を軽く叩くと「おやすみ」と囁いて腰を上げた。
「……おやすみ」
 衣緒は父の背中にそっと呟いた。

 それから、数日後。草平が教授を務める東京崇敬大学のキャンパス。廊下には西日が差し込み、空間全体がオレンジ色に満たされていた。その中で、ふたりの男が立ち話をしている。
「まだ決めるのは早いんじゃないかな」
 草平は男子学生に語りかけた。
「これから夏休みに入るし、その間によく考えてからでも遅くないと思うよ」
「……はい」
 痩せ気味の男子学生は、項垂れたままで草平と目を合わそうとしない。草平は溜息をついた。
「辞めるのは簡単だよ。でも、後悔はずっと続くからね。……できれば大学にいる間に色々吸収してもらいたいな」
「……すみません」
 か細い声でぼそりと呟く学生の肩を叩く。
「家族とも相談して。僕もできるだけ話を聞くから」
「はい。……ありがとうございます」
 学生は申し訳なさそうに頭を下げると、頼りない背を見せて立ち去っていった。草平は深い溜息をついた。家族と相談するように言ったものの、彼は親身になって聞いてくれる家族がいるのだろうか。自分は、どこまで踏み込むべきなのだろう。教師になってずっと抱えてきたことだ。答えはまだ出ないだろう。そう思いながら鞄を抱え直すと、
「佐倉先生」
 歌うような柔らかな声。振り向いた先には、オレンジの陽に染まった女性。細身のパンツスーツに、大きなショルダーバッグ。涼しげなボブカットがよく似合うその女性は、にっこり微笑んだ。
「藤木先生」
 藤木小枝さえ。草平と同じ近代文学を専門とする大学講師だが、所属する大学は異なる。いつも元気のいい印象の藤木は颯爽とした足取りで歩み寄る。
「ゼミ生さんですか?」
「いや……」
 草平は少し恥ずかしげに苦笑した。
「まだ一期生なんだけど、大学を辞めたいと言い出してね」
「まぁ」
 呆れたように目を見開く藤木に草平は肩をすくめてみせる。
「友人もできなくて、環境に馴染めないそうだ。若い頃なら、呆れ果てて怒鳴りつけていたかもね」
「私なら怒鳴りつけますわ。甘ったれるなと」
 憤然と言い切る藤木に笑うと、残念そうに息をつく。
「ただ、やる気が出ないならこちらにも非がある。学びたいと思わせる要素がないということだ」
 その言葉に藤木ははっと目を見開き、恥じ入るように神妙な表情になる。
「……さすがですね、佐倉先生」
「まだ半人前ですよ、僕も」
 草平の横顔を見つめる藤木の眼差しからは憧憬が感じられるが、本人は意に介さぬ様子で振り返る。
「今日はこちらに?」
「――ええ、文学館の展示の打ち合わせと、それから……」
 藤木はショルダーバッグから大事そうに本を取り出す。
「佐倉先生にこれをお返ししようと」
「ああ」
 本の表紙を見て、草平は顔をほころばせた。
「わざわざありがとうございます」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。助かりました」
 ぺこりと頭を下げ、藤木は少し緊張した面持ちでおずおずと口火を切った。
「いつも貴重な資料を快くお貸しいただいて感謝しています。あの……、お礼の印に……」
 少し躊躇ってから、思い切って身を乗り出す。
「良かったら、今晩お食事でも」
 藤木の必死な呼びかけに、表紙を見つめていた草平は妙な間を空けて顔を上げた。
「――自分ですか」
 少々面食らった様子の草平に、藤木は几帳面に「はい」と返す。大きく瞠ったつぶらな瞳を真っ直ぐ向けられ、草平は動揺して頭を掻いた。
「ああ……、夜は、ちょっと困ったな。娘のご飯を作らないと」
 草平の言葉に藤木は思わず両手で口を覆う。
「も、申し訳ございません……! 私、佐倉先生は独身でいらっしゃると……!」
「独身ですよ」
 苦笑いにも似た表情で穏やかに返すと、藤木はますます困惑の表情になる。
「結婚はしていないけれど、娘がいるんです。急に夜空けるのはちょっと気になるから、今度ランチでもしましょう」
「は、はい!」
 それでも藤木は嬉しそうに上気した笑顔を見せた。


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