キリエが鎧を脱ぎ、身だしなみを整えている間にジュビリーはモーティマーを伴い、幽閉されている王太后ベルの部屋へ向かった。
寝室に入ってきた二人の男にベルは一瞬ぎょっと顔を引きつらせたが、相手がクレド伯だと気づくと眉をひそめた。
「……戻ってきたわね」
ジュビリーはわずかに頭を下げただけだった。国を売った奸婦に礼を取る必要はない。モーティマーも、無表情で冷ややかな視線を送る。
「キリエ・アッサーは」
「……即位宣言の準備を」
「そう」
ベルはつまらなげに呟く。そして、上目遣いに見上げる。
「……私はどうなるの? 斬首刑?」
「まさか」
ジュビリーは冷たく言い返した。君主に対する反逆罪は身分が高い者の場合、斧による斬首が相場だった。だが、ベルは仮にもアングルの王太后であり、ユヴェーレンの王女である。
「レディ・キリエは敬虔な修道女であられます」
慇懃な言葉にベルは顔を歪めて笑った。かすれた笑い声が暗い部屋にしばらく響いていたが、やがて疲れた顔を上げる。
「……今となってはどうでも良いけれど、リシャールはどうなったの?」
「捕縛しました。今頃、ギョーム王太子と再会を果たしていることでしょう」
「ふん」
ベルの口許には笑みが絶えることがなかった。そして、目を細めると呻くように呟く。
「……結局、あの女の娘が王位を継ぐわけね」
あの女。ジュビリーの脳裏にケイナ・アッサーの姿が過ぎる。先ほどのウィリアムの言葉も思い出される。そう。彼女はいつも寂しげな微笑を浮かべていた。華やかな王宮から逃れるようにして離宮でキリエと過ごした短い時間。それは唐突に終わりを告げたのだ。そのキリエが今、王位を宣言しようとしている。ジュビリーは表情を引き締めると居住まいを正した。
「あなたの沙汰が決まるまで、ここに留まっていただく」
それだけ言い放つとジュビリーは踵を返した。その時、ベルが顔を上げた。
「モーティマー」
名前を呼ばれたモーティマーは足を止めた。ベルは恨みとも諦めともつかない表情で呟いた。
「……おまえの粘り勝ちね」
それに対し、モーティマーは言葉を返さず、一瞥だけをくれると再び背を向けた。
玉座の間へ向かう道すがら、ジュビリーが低い声で尋ねる。
「今まで、どこで何をしていた。モーティマー」
相手はちらりとジュビリーを見やると、無言で疲れた笑みを浮かべてみせる。
「レノックスがおまえの行方を探していたそうだ」
「……そうですか」
しばらくの沈黙の後、モーティマーはようやく重い口を開いた。
「最初……、ルール公から王太后を監視するよう命じられました。ですがその後、王太后に命じられるまま外部と連絡を取り持ち、挙げ句の果てにはガリアにまで行かされました」
ジュビリーが目を眇めて振り返る。
「……リシャールの下へ?」
「はい」
そこでモーティマーは立ち尽くした。
「あの頃の私は、自分が何者なのかさえわからなくなっていました。わからないまま時間は過ぎ……、結果、私は国を売りました」
ジュビリーは無言で振り返る。モーティマーは沈んだ表情で言葉を続けた。
「……そんな時でした。ホワイトピーク公とお会いし、まだ間に合う、これ以上流れに身を任せるなと諭されました。そして……、あなたとレディ・キリエがいらした。ずっと……、お待ちしておりました」
そこまで語り終え、モーティマーは自嘲気味に言い添えた。
「私は、ここに留まる資格がありません。許されるならば……、このまま王都を離れるつもりです」
「許すと思うか」
間髪を入れずにジュビリーが言い放ち、引きつった表情のモーティマーに畳みかける。
「おまえの勤めはまだ終わっていない。やらねばならぬことが山ほどある」
「しかし……」
「密偵として動いたのであれば、その経験を活かせ。諜報活動はレスター男爵に任せてある。彼の配下となり、私やレディ・キリエを支えてくれ」
モーティマーは困惑した表情でジュビリーを凝視した。言葉を失った彼に歩み寄ると、ジュビリーは低く呟いた。
「皆、罪を背負って生きている。償い方は色々ある」
それでも戸惑った表情のモーティマーに、ジュビリーは目を伏せる。
「私は……、九年前におまえに世話になったことを忘れてはいない」
モーティマーの目が大きく見開かれる。が、やがて痛ましげに唇を噛み締める。九年前のあの日のことは、忘れようとしても忘れることなどできない。
幼さが残る、黒髪の美しい伯爵夫人。満面の笑みを浮かべ、幸せに満ちた瞳で夫を見守っていた彼女は、自分にも優しい言葉をかけてくれた。
「ジュビリー、行ってらっしゃい。サー・ロバート、あなたもお気をつけて。夫をよろしくお願いしますね」
彼女の姿を目にしたのはそれっきりだった。レディ・エレオノール・バートランド。彼女の死が、この黒衣の伯爵にどれだけの絶望をもたらしたのか、今の姿を見れば想像に難くない。
「おまえを必要としているのだ。私も、キリエもな」
モーティマーはじっとジュビリーを凝視すると、やがて静かに一礼した。
ブリー公領では、申し訳程度の手当てをされたリシャールが地面に座らされ、周りでルール軍の兵士たちが口々に罵詈雑言を浴びせかけていた。唇を噛み締め、顔を歪めて屈辱に耐えるリシャールを、レノックスはにやにや笑いながら見下ろしている。
「いい眺めだな? リシャール」
椅子に腰を下ろしたレノックスは、右足を上げるとリシャールの肩をぐいと押した。痛みと屈辱に呻き声が上がるがレノックスは容赦などしない。
「王の誇りとやらがあるならば、ガリアに留まって果てればよいものを、あんなあばずれの口車に乗せられるとは……」
リシャールが口惜しげに何か言おうと口を開いた時。兵士たちを掻き分けて側近が声を張り上げた。
「公爵! ギョーム王太子が到着されました!」
息子の名を耳にしたリシャールは、びくりと体を震わせた。その様子を見たレノックスは笑いを押し殺しながら腰を上げ、リシャールの腕を掴むと立ち上がらせた。
「良い息子だな、リシャール。わざわざ貴様を迎えに来たそうだ」
リシャールはぶるぶると震えながら口走った。
「こ、殺せ……! 予を殺せ! 冷血公!」
「そうはいかん」
冷たく言い放つとレノックスは手を上げて兵士らに道を開けるよう指示した。やがて、左右に開いた道の先から、〈白百合〉の紋章旗を捧げ持った一団が近づいてきた。リシャールの目は、その中に息子ギョームの姿を捉えた。そして、後ろに続くかつての腹心、バラ。怒りと恐怖で胸が張り裂けそうになりつつも、リシャールは最後の自尊心を奮い起こし、精一杯胸を張って立ちはだかった。
ギョームは、顔面に包帯を巻かれ、血や泥に塗れたままの父親の姿を目にして顔を歪めた。ルール軍の兵士たちは、リシャールとギョームがどんな再会を果たすか興味津々に見守った。
二人は互いに無言で立ち尽くした。眉間に皴を寄せ、目を眇めて凝視するギョーム。傷と恐怖のせいで震えが止まらないリシャール。
レノックスは相変わらず冷笑を浮かべたまま二人を交互に見やった。
「……父上」
先に口を開いたのはギョームだった。その声色には、軽蔑よりもむしろ憐憫に近いものがあった。
「……違う」
リシャールは呻いた。
「予は……、そなたの父親ではないッ。そなたも、予の子ではない!」
「見苦しいぞ、リシャール」
レノックスが脇から声をかけ、兵が一斉に囃し立てる。ギョームは少しの間目を閉じ、溜め息をつくと再びゆっくり目を開けた。
「……私以外の誰があなたを迎えに来ます? 母上が迎えに来るには、まだ早いのでは?」
「マーガレットが……、そなたを許すと思うか……! 父に歯向かい、反逆したそなたを!」
「母上は私を許さなくとも、父上のことはお許しになるでしょう。母上は父上を愛しておられましたから。ご自分を……、愛してはくれなかった夫を……!」
ギョームはそう言い放つと大きく息を吐き出し、気を落ち着かせてからレノックスを見上げた。
「……ルール公。ありがとう、おかげで父を連れて帰れる」
「連れて帰ってどうするおつもりだ?」
レノックスは冷笑を浮かべてはいたが、その目は決して笑ってはいなかった。ギョームは険しい表情のまま、父を一瞥すると呟いた。
「父は……、自分が何をしたのかわかっていないようだ……。時間をかけて罪を償ってもらわねば」
幽閉するつもりか、甘いな。レノックスはふんと鼻先でせせら笑った。だが、本当のところはリシャールがこれからどんな運命を辿ろうと興味はなかった。
ギョームがリシャールに手を伸ばしたその時。辺りが騒がしくなったかと思うと、兵士が声を上げる。
「公爵! マーブル伯です!」
振り返ると、騎乗のシェルトンが兵士らを掻き分けてやってくる。鎧は傷だらけになり、顔も汚れている。
「ご苦労だったな、シェルトン」
レノックスが声をかけると、シェルトンは疲れた顔つきで頭を下げる。
「ギョーム王太子に父君を引き渡すところだ。迷惑千万な親子喧嘩も、これで終結といったところか」
シェルトンは特に表情を変えないまま、無言でリシャール、ギョーム親子を見下ろす。二人に興味はない、といった顔つきで彼は溜め込んだ息を吐き出した。が、やがて眉間に皺を寄せ、視線を辺りに彷徨わせる。何かが……、違う。何だ、この違和感は? シェルトンの表情が俄かに険しくなる。
ギョームがルール軍の罵声を浴びながら父の腕を取って引き寄せるのを目にした時だった。シェルトンは不意に顔をしかめると、ぐるりと周囲に目を向ける。
「ルール公!」
両目を見開いたシェルトンが一喝する。
「どうした」
「クレド伯の軍は? 〈赤薔薇〉の紋章が見当たらぬ!」
レノックスの顔色がさっと青ざめ、とっさにギョームを振り返る。そこにいたのは、目を細め、にやりと嘲笑した少年だった。少年は低い声で囁く。
「目の前の楽しみに心を奪われすぎだ、冷血公」
その言葉でレノックスはすべてを察した。すでに、ジュビリーはイングレスへ向かっている!
「貴様!」
レノックスが叫びながら剣を抜くと同時に、ギョームは父の腕を掴むと後ろへ投げ飛ばした。手負いの王はバラの手に受け止められた。怒り狂ったレノックスの剣をかわし、ギョームも長剣を抜くと二度三度と打ち交わし、その場は騒然となった。
「小賢しい真似を……! 生きては帰さぬッ!」
怒りで頭が一杯になったレノックスの剣は鋭さを失っていた。ギョームは冷静に刃を打ち返すと、素早く体を入れ替え、レノックスの懐に飛び込むと盾で押し込むように薙ぎ倒す。小柄なギョームが内戦中に身につけた「体術」だ。
「公爵!」
抜剣したヒューイットがギョームに襲い掛かるが、彼は左手の盾で跳ね返し、相手がよろめいた隙に近衛兵たちが王太子の周りを守り固める。その間、シェルトンは手綱を引くと大声で怒鳴った。
「総員、イングレスへ向かえ! 急げ!」
マーブル軍が一斉に移動する轟きを耳にし、レノックスは必死に起き上がると自身も馬によじ登る。
「ガリアの馬鹿どもは放っておけッ! イングレスへ向かえ!」
リシャールはすでにガリアの近衛騎士団によって確保されていた。ギョームは、蜘蛛の子を散らす勢いでレノックスとシェルトンの軍勢がその場を離脱する様子を目にすると馬に飛び乗った。
「バラ、そなたは父上をガリアへ連れて帰れ」
「殿下は?」
「私はここへ留まり、レディ・キリエを支援する」
「なりません!」
バラが顔をしかめて声を上げる。
「これ以上ガリアを留守にするわけにはまいりませぬ! 速やかに帰国し、戴冠せねば!」
バラの言うことは正しかった。ギョームは悔しそうにルール軍が撤退していく様子を眺めた。
「お名残惜しいのはわかりますが、殿下、あなたは……、ガリアの君主にあらせられます!」
バラの必死の説得に、ギョームは大きく息を吐き出した。
「……わかった」
「ヘルツォークが進軍を食い止めるでしょう。これから先は、グローリア女伯の手腕が試されます。我々にはやらねばならぬことがあります。殿下が戴冠し、国内の混乱が収められた後に支援に向かいましょう。女伯の援助に報いなければなりません」
キリエの手腕――。キリエはイングレスを完全に制圧できたのだろうか。ルール軍とマーブル軍を迎撃できるだけの兵があるのだろうか。心配でならなかったが、今はバラの言う通り、帰国せねばなるまい。ギョームは後ろ髪を引かれる思いで、軍にホワイトピークへの移動を命じた。
「……必ず戻ってくる」
ギョームは一人呟いた。
「必ず、再び会いに……、ここへ」
プレセア宮殿。衣裳部屋から姿を現したキリエは、アングル王家を象徴する深紅のドレスに身を包んでいた。
「市内の様子は?」
まだ緊張した口調で尋ねるキリエに、ジョンが答える。
「ガリア軍はすべて投降しました」
「暴動などが起こらないよう、警戒を……」
「はっ」
まだ雑然とした大廊下の入り口で、鎧を脱いだジュビリーが待機していた。大廊下からは人々のざわめきが聞こえてくる。
「準備は整っている」
低い声で耳打ちされ、キリエは黙って頷いた。胸を押さえると忙しない鼓動が伝わってくる。目を閉じると大きく息を吸い込む。
「行こう」
ジュビリーに促され、キリエは目を開いた。そして、ゆっくりと最初の一歩を踏み出した。
扉が大きく左右に開かれる。大廊下に集結していた廷臣や貴族たちは途端に静まり返った。そして、遠くに聞こえる潮騒のように低い囁き声が広がった。キリエは皆の視線を一身に受けながら大廊下を進んだ。一年前は歩くのもおぼつかなかった修道女が、今では凛とした王位継承者として舞い戻ってきた。キリエだけでなく、迎え入れた廷臣たちも万感の思いを胸に息を潜め、その姿を見守った。
長い大廊下を進んだ先に、玉座の間があった。アーチを潜ると、繊細な細工を施された玉座が主を待っている。あれから一年。色んなことがあったが、ようやく再びこの玉座へ座る。だが、真の戦いはこれからだ。この玉座に着くことによって終わる戦いと、新たに始まる戦いがある。
「グローリア女伯」
整然と並んだ廷臣たちの中から、見覚えのある男が進み出た。
「無事のご帰還、何よりでございます。覚えておいでございましょうか。宮廷侍従長セヴィル伯でございます」
キリエはかすかに微笑むと頷いてみせた。一年前、ここで王位宣言をした時の光景が鮮やかに蘇る。
やがて、玉座の前まで歩み寄ると思わず息を呑んで立ち止まる。ここへ座るために、多くの犠牲が払われた。望んでここまで辿り着いたはずなのに、キリエは罪悪感で一杯だった。しばし無言で玉座を見つめていると、そっとジュビリーが隣に寄り添うと手を取った。見上げると、ジュビリーは黙って頷いた。キリエもゆっくり頷くと、そっと玉座の手摺りを握ると腰を下ろした。彼らの周りを廷臣らが取り囲む。
「……グローリア女伯」
セヴィル伯が厳かに呼びかけた。
「王位宣言を」
キリエは居並ぶ廷臣を見渡した。中には王都解放の戦いに参加したらしく、手傷を負った者もいる。彼らの多くは父エドガーの代から宮廷に身を置く者たちだ。父のせいで国は乱れた。娘である自分には、アングルを立て直す責務がある。そんなことが本当にできるのか、この一年自問してきた。
(私しか、いないんだわ……」)
キリエは、まるでその場に誰も居ないかのようにぼんやりと思った。
(レノックスにも、エレソナにも任せられない。私しか、この役目は引き受けられない。私しか……)
それが、導き出された答えだった。決して、運命を完全に受け入れたわけではない。諦めに近かった。ジュビリーがいるなら、ジョンがいるなら、レスターがいるなら、引き受けよう。自分一人では、決してこの重責に耐えられない……。
「……女伯」
傍らのジュビリーの声に、現実に引き戻された。キリエはジュビリーに視線を投げかけてから、左手の指輪に手を重ねた。父が遺した愛情の証であり、運命の象徴、赤い蝶は今も煌きを放っていた。指輪をそっと撫でると静かに目を閉じる。口の中で天への祈りを呟いてから、居住まいを正し、顔を上げる。
「……王位を宣言します」
はっきりとした声が玉座の間に響いた。
「私は、キリエ・アッサー・オブ・アングル。アングルの女王である」
瞬間、一同は手を胸に添えてその場に跪いた。
「ブリー公領の戦いが気になります」
やや声を低めてキリエは続けた。
「リシャール王を追放し、国内の安定に努めなければ……。兄や姉は、まだ私を君主として認めていません」
「国民はすでに女伯を君主として認めております。早々にクロイツへ使者を送り、戴冠を急ぎましょう」
セヴィル伯の言葉にキリエが頷いた時。大廊下から駆け込んでくる足音が響く。キリエの顔が引き締まる。
「申し上げます!」
玉座の間に飛び込んできた衛士が叫ぶ。
「ブリーからルール公とマーブル伯の軍がイングレスへ向かっております!」
その場が一斉に静まり返る。が、キリエは落ち着き払って体を乗り出した。
「リシャール王は」
「ギョーム王太子に引き渡されたようです。王太子の軍は退却し、現在イングレス郊外に神聖ヴァイス・クロイツ騎士団が陣を張っております!」
少しの間黙り込んだキリエは、ちらりとジュビリーに視線を投げかけた。彼は黙って頷き、廷臣たちに呼びかけた。
「女伯と同盟を結んでいる諸侯たちを呼び寄せろ。戦場に駆けつけた者を臣下と見なす、と」
「はっ」
そしてジュビリーはキリエを振り返った。
「私は軍を率いてルール公とマーブル伯を迎え撃ちます」
瞬間、キリエは言葉を失ったが、ジュビリーの強い瞳に押し切られるように小さく頷く。
「……お願いします」
ジュビリーはそれ以上語らず、じっとキリエを見つめると、背を向けた。その後姿を黙って見送ったキリエは、落ち着かない様子で玉座を立とうとした。すると、
「ッ……!」
突然刺すような頭痛が走り、思わず額を押さえる。
「女伯?」
モーティマーの心配そうな声にはっと顔を上げる。
「ご気分でも……」
「――何でもないわ」
務めて明るく答えると、辺りを見渡す。
「王都の守りを万全にしておかないと」
「はっ」
モーティマーは一礼すると、衛士たちに命令を下し始めた。その間、キリエはうずく頭痛に眉をひそめていた。