翌朝、キリエは頭の鈍い痛みで目を覚ました。ぼんやりと天蓋を見つめ、首を巡らすと鋭い頭痛に顔をしかめる。晩餐会の後はいつも激しい二日酔いに襲われる。キリエは憂鬱そうに息を吐き出した。
寝室にギョームの姿はなかった。目を覚ますと夫がいない風景に慣れてはいたが、時々寂しく思う時があった。キリエはしばらく寝床でぐずぐずしていたが、やがて思い切って体を起こした。瞬間、目に飛び込んできたのは一糸纏わぬ自らの裸身。
「きゃあッ!」
露わになった胸に驚いたキリエはその場に突っ伏した。と同時に激しい頭痛と吐き気に襲われる。混乱する頭でキリエは譫言のように呻いた。
「ど、どうして、どうして、私……!」
その場に蹲っていると、扉の向こうから声がかけられる。
「……キリエ様?」
「ま、マリー……!」
キリエの裏返った声にマリーが眉をひそめながら扉を開く。そして、白い肌を露わにした王妃にぎょっとする。
「……キリエ様……!」
「マリー……!」
慌てて駆け寄るとガウンを羽織らせる。
「キリエ様、一体何が……!」
「わ、わからない……。昨夜のことは、覚えていないの……!」
どうしても酒が入るとキリエの記憶は飛んでしまうらしい。マリーがキリエの乱れた髪を撫でた時、彼女は息を呑んで手を止めた。キリエの胸に薄い痣がいくつかできている。マリーはごくりと唾を飲み込むとキリエの背を撫でた。
「マリー……、私……、何があったの……」
キリエは不安でいっぱいの表情で見つめてくる。マリーは彼女をそっと抱きしめると、気分が落ち着くまでしばらくそのままでいた。
「……ご気分は……?」
「少し、気持ちが悪いの……。頭も痛いし……」
「しばらく休んでおきましょう」
「……ギョームは?」
恐る恐る尋ねる。マリーはそっと体を離した。
「朝駆けに……。少しお疲れのようでしたが、いつもと変わったご様子はございませんでした」
キリエは困惑の表情で俯いた。と、その時、脳裏にギョームの声が響く。
(駄目だ、キリエ……。そなたを大事にしたいのだ)
震える手で頭を抱える。
(エレソナは抱いたのに、どうして私は抱いてくれないの……!)
「……わ、私……、ギョームに、ひどいことを言ったわ……」
「え……?」
涙ぐみながら囁くキリエ。
「……それから先は、思い出せない……!」
「キリエ様……」
キリエは両手で顔を覆うと泣き崩れた。
「いや……! 私……、ギョームに嫌われたくない……!」
朝駆けを終えたギョームは、暗い表情で厩舎に戻ってきた。
「陛下、グローリア伯夫人が……」
馬丁の言葉にギョームは顔を上げた。視線の先には、強張った表情のマリーエレンが佇んでいる。ギョームは頷き、二人は後宮のバルコニーへ向かった。
「……キリエは」
「ご気分が優れないので、休んでいらっしゃいます」
ギョームはバルコニーの手摺りに手をかけると溜息をついた。
「……昨夜のことを覚えていたか」
「……いえ……」
「そうか……。覚えていないなら、それでいい」
「陛下……!」
マリーの不安げな声にギョームは振り返った。そして、思い詰めた表情で目を伏せる。
「……キリエを抱いた」
王の言葉にマリーはごくりと唾を飲み込んだ。
「だが……、最後の最後で怖がった。だから……」
マリーは小さく頷いた。ギョームはやがて辛そうに目を閉じ、消え入りそうな声で囁く。
「……キリエを失いたくない」
「陛下……」
「キリエが怖がることもしたくない。……キリエに、嫌われるのが怖い」
マリーは若い王を痛ましい思いで見つめた。二人の間に重苦しい沈黙が流れ、ギョームは再び溜息をついた。
「……陛下」
マリーがおずおずと口を開く。
「王妃は、同じことを仰せでございました。陛下に……、嫌われたくない、と」
ギョームは疲れた表情で目を上げた。
「王妃は、陛下の思いにも、皆の期待にも応えようと……」
その時、遠くから人々の話し声が聞こえてくる。辺りが明るくなり、侍従たちが朝の仕事に取りかかり始めた。ギョームは重い溜息を吐き出すと顔を上げた。
「ありがとう、グローリア伯夫人。キリエには……、予から話す」
「陛下……」
ギョームが歩き出し、マリーは慌てて後を追った。後宮に戻ると、通路からざわめきが聞こえてくる。角を曲がると、数人の女官に囲まれたキリエの姿が。
「キリエ!」
ギョームとマリーが驚いて駆け寄る。
「二日酔いだろう。休んでおけ」
「駄目よ」
相変わらず青い顔でキリエが答える。
「朝食会には出ないと……」
「アングルの使節団も、帰国は明日だ。朝食会に無理に出席することはない」
夫の説得にも、キリエは強張らせた顔を横に振る。
「これは……、王妃の務めだから」
キリエの言葉にギョームは顔を歪める。しばらく妻の顔を見つめると、マリーやルイーズを振り返る。
「……キリエを頼む。何かあればすぐに……」
「承知いたしました」
ギョームの生誕祝賀会に訪れた来賓らは、朝から華やかな朝食会に招かれた。テーブルには季節の花々が飾られ、楽師たちが爽やかな音楽を奏でている。ジュビリーは、てっきりキリエは寝込んでいるものとばかり思っていたため、皆の前に姿を現した王妃に少なからず驚いた。そして、明らかに体調が優れない様子に顔をしかめる。だが、隣に寄り添うギョームが何かにつけて妻に声をかけ、手を添える様子を見る限り、王が無理強いしたわけではなさそうだった。レスターも眉をひそめて囁く。
「……二日酔いのようですな」
「……ああ」
ギョームは妻から名馬を贈られたことを嬉しそうに語り、今朝の朝駆けの様子を事細かに語ってみせ、朝食会は終始和やかな雰囲気が流れていた。その間、キリエは何とか微笑を絶やさず、夫を見つめていた。
朝食会が終わると、キリエは夫に手を引かれて「王妃の寝室」に連れていかれた。
「大丈夫よ、ギョーム」
キリエが呼びかけるものの、ギョームは黙って寝室に向かう。すでに侍女によって寝室は整えられていた。ギョームは侍女や女官を寝室から退出させ、王妃のために用意されていた薬湯の茶器に目を落とす。
「……これは、その……、どうやって注ぐのだ?」
恥ずかしそうに尋ねる夫に、寝台の縁に腰掛けたキリエは思わず微笑んだ。
「大丈夫よ、私が淹れるから……」
妻の言うことを聞かずに、ギョームは湯を入れた熱いポットに触れて飛び上がる。
「熱……!」
「ギョーム!」
慌てて立ち上がったキリエに、ギョームは手を押さえたまま声を上げる。
「駄目だ! 座っておけ!」
夫の強い声に思わずびくりと体を震わせ、その場に立ち尽くす。キリエの怯えた表情にギョームは慌てて肩に手をかけ、ゆっくり座らせる。
「す、すまない。怒ったわけではない」
キリエは戸惑った様子で夫を見上げた。黙り込んだ妻の首元にギョームがそっと手を這わせた瞬間。
「ッ!」
思わず体を固くして顔を伏せる。キリエの脳裏に断片的に光景が蘇る。寝衣を脱がされ、優しく肌を撫でられ、胸に口付けを――。
「キリエ……!」
夫の声にはっと顔を上げる。ギョームが心配そうに顔を覗きこんでくる。
「……覚えていたのか……」
キリエは顔を歪めると夫にすがりついた。
「……キリエ……」
しばらくキリエは呼びかけにも応じずに黙り込んだ。そして、ようやく小さな声で囁く。
「……ごめんなさい……」
「何故謝る」
「私……、あなたに言われたこと、忘れていたわ……」
「何?」
ギョームは眉をひそめると体を離し、キリエの髪をそっと撫でる。妻は目にいっぱい涙を溜めて見上げてくる。
「……時間が欲しいって……。私を幸せにするために、時間が欲しいって言ってくれたのに……。なのに、私」
ギョームは顔を振ると再び妻を抱きしめた。周りが自分たちを急かしていることに胸を痛めていた上、エレソナが早々とギョームの子を身篭った。焦りを感じるのは当然だ。どうして、こんな目に遭わなくてはならないのだ? ギョームは悔しげに顔を歪めた。
「……焦るな」
「……え」
ギョームはわずかに涙が混じった声で呟いた。
「私も焦っていた。だが……、やはり、私は、そなたを大事にしたい」
キリエの目から涙が零れる。跪き、妻の胸に顔を埋めたギョームが、声を詰まらせながら続ける。
「……そなたを大事にしたい。……だが、その気持ちと同じぐらい……、そなたが、欲しい」
キリエはそっと顔を上げると、震える手で夫の髪を撫でる。
「その気持ちが抑えられなくなると……、そなたを傷つけてしまう。傷つけたくないのに……!」
「……ギョーム」
キリエは胸が一杯になってギョームを抱きしめた。
「……ありがとう、ギョーム……」
「……キリエ……」
「……嬉しい。私、こんなにあなたに大事にされて……。幸せだわ……」
ギョームは恐る恐る顔を上げると、妻の顔を見上げた。泣きながらも精一杯の笑顔を向けてくる彼女に、ギョームは声を詰まらせると再びキリエにすがりついた。
翌日、帰国する直前のジュビリーが従者たちに大きな木箱を妹夫婦の居室に持ち込ませていた。
「何です? 兄上」
マリーが目を丸くして木箱を凝視する。
「開けてくれ」
従者が蓋を開くと、中には可愛らしい装飾が施された乳母車が納まっている。よく見ると、乳母車には玩具が目一杯詰め込まれている。マリーはぱっと顔を明るくするとジョンを振り返る。彼も嬉しそうに妻の手を握り締める。
「兄上……。ありがとうございます」
「大事に使わせていただきます」
嬉しそうに囁く妹夫婦に、ジュビリーは黙って頷く。
「再来月の、キリエ様のご帰国には同行するつもりです」
「大丈夫なのか」
「ギルフォードもその頃にはしっかりするでしょうし。私も……、そろそろアングルが恋しくなってまいりました」
「……そうだな」
ジュビリーは、安らかな寝息を立てるギルフォードの頬をそっと撫でた。
「……おまえも、この一年は辛いことも多かっただろう」
兄の言葉にマリーは微笑を浮かべて顔を振る。
「ジョンがいましたから。それに……、キリエ様からもずいぶんと励まされました」
ジュビリーは、目を細めて甥を撫で続けた。その姿に、ジョンも嬉しそうに歩み寄った、その時。ジュビリーは義弟の手首を掴んだ。思わず顔を強張らせるジョンだったが、ジュビリーは掴んだ手を目の高さまで持ち上げた。数日前まで赤く腫れていた手だ。
「誰を殴った」
冷静な声で尋ねる義兄にジョンは顔を歪ませた。黙ったまま答えない夫にマリーが「ジョン」と囁きかける。彼は、大きく息をついてからようやく口を開いた。
「……財務卿のデュ・スールト伯です」
ジュビリーは目を眇めるとようやく手を離した。
「何があった」
「……あいつが」
低い声で搾り出すように呟く夫にマリーも辛そうに目を伏せる。
「レディ・エレソナが懐妊したことで、ギョーム王陛下に子種がある証が立てられたとぬかしたので」
思わず眉間の皺が深まる。ジュビリーは納得したように頷いた。ジョンはやるせなさそうに顔を振った。
「それだけでなく、キリエ様まで侮辱する発言を続けようとしたので殴りました。……王の耳に入れぬよう懇願してきましたが、アンジェ侯があっさり漏らしました」
「何?」
顔をしかめて聞き返してくる義兄に、ジョンは思わず微笑んだ。
「さすがですね。アンジェ侯は良くも悪くもギョーム王をよくわかっておられる。以前の陛下ならば、激昂してデュ・スールト伯の任を解き、王都から追放するところでしょうが、一ヶ月の謹慎で済みました。今、財務卿が交代すれば国が混乱します」
そこで言葉を切り、どこかせつなげに溜息をつく。
「……キリエ様は、ギョーム王に守られています。実感いたしました」
降りかかった数々の困難はギョームを成長させた。ジュビリーは静かに頷くと、義弟の肩を叩いた。
「……ギョームを見るキリエの目が変わった」
マリーは眉をひそめた。
「エレソナのことで、二人とも大きく傷ついたことだろう。……ようやく、心から愛し合えるようになったな」
「兄上……」
心配そうな声の妹に、ジュビリーはゆっくりと顔を上げた。その顔はどこか寂しげだった。やがて扉が叩かれ、レスターの声が聞こえてくる。
「侯爵、そろそろ……」
「わかった」
「兄上……、お気をつけて」
「おまえもな」
ジュビリーはレスターやウィリアムと共に、謁見の間でギョームとキリエに帰国の挨拶を述べた。キリエは前日に無理をしたのがたたったのか、眠そうな顔つきだった。宮殿のアプローチ前で、レスターと共に馬車に乗り込もうとした時だった。
「義兄上!」
走り寄ってきたジョンが何かをジュビリーに握らせた。顔をしかめる義兄にジョンが耳打ちする。
「キリエ様から、お手紙です」
ジュビリーの顔に緊張が走る。
「つい先ほど認められたようです」
思わず握り締めた拳を見つめる。が、黙って頷くと馬車に乗り込んだ。
「キリエ様からですか」
レスターの言葉にジュビリーは頷きながら手紙を開いた。彼はしばらく黙って読み進めていたが、やがて眉間に寄せた皺が一段と深くなる。
「……侯爵」
レスターが眉をひそめるが、ジュビリーはかすれた声で呟く。
「……大丈夫だ」
手紙を折り畳むと懐に押し込む。無表情を装ってはいたが、その胸中はひどく乱れていた。ジュビリーは目を細めて窓の外の風景を見つめた。
(キリエを帝国の女帝に? 何を考えている? カール・ムンディ……!)
その頃、エスタド、ピエドラ宮殿の大広間で廷臣らと会議を開いていたガルシアの元に、強張った表情の男が現れた。ビセンテの子飼いの部下で、国内外の情報管理を任されているアロンソ・トーレス男爵だ。
「陛下、ガリアに放っていた密偵から報告が……。ギョーム王が側室を迎えたそうでございます」
大広間に緊張が走る。そして、皆は怯えた表情で王を振り返った。ガルシアは目を大きく見開いたまま、微動だにしなかった。ビセンテがトーレスを問い詰める。
「側室の素性は」
「それが……、王妃の異母姉、レディ・エレソナ・タイバーンだそうです」
「何だと……!」
廷臣たちは呆れた様子で声を失う。トーレスは固い表情を崩さないまま続ける。
「国民の間に世継ぎを求める声が上がり、それに押し切られる形でギョーム王が側室を無理やり持たされたとのことです。ガリアの民は、遠からず我々エスタドやユヴェーレンと戦争が起こることを恐れているようです」
ビセンテは険しい表情で呟く。
「先日、ギョーム王がカンパニュラ、ポルトゥス、ナッサウの三国を結び付けようとしているらしいとの報告を受けたばかりです……」
「それだけではございません」
トーレスの言葉に皆が視線を向ける。
「先日、キリエ王妃が非公式にクロイツを訪れたという情報も……」
「何?」
ビセンテが目を剥く。
「早く知っておれば……!」
「キリエ王妃……、一体大主教と何の話を……」
廷臣らが騒ぎ始めた時、それまで黙りこくっていたガルシアが突然席を立つと廷臣らを置いたまま大広間を後にした。
「陛下!」
ビセンテが慌てて後を追うが、ガルシアは黙ったまま早歩きで去っていった。彼はまっすぐ後宮へやってくると、迎えに出た女官に尋ねる。
「フアナは」
「中庭で、市民との謁見に応じていらっしゃいます」
それを聞くとガルシアはその足で中庭へと向かった。
中庭では、大勢の市民が王太女との謁見を求めて行列をなしていた。時々、ガルシアやフアナは市民の陳情を聞くために大勢の民を王宮に招いていた。貧困に喘ぐ者、病に冒された者、様々な者たちが陳情を訴えにやってくる。フアナは優しい笑顔で市民たち一人一人の声に耳を傾けている。
「王太女……」
側で控えている女官が声をかける。顔を上げると、バルコニーに父親の姿が見える。
「……父上?」
父の険しい表情に眉をひそめながらも、フアナは女官に囁いた。
「……終わるまで待っていただいて」
最後の一人まで謁見をこなすと、フアナは不安げな顔つきで父親の元へ向かった。
「お待たせしました、父上」
ガルシアはフアナの手を掴むと歩き出す。
「父上、一体どうしたの?」
「ガリアへ侵攻する」
「えッ」
唐突に言い放たれた言葉に、フアナはぎょっとして足を止める。
「ガリアを手中に入れたら次はアングルだ。ユヴェーレンと連合軍を編成して……」
「待って……! 父上……!」
フアナは必死で囁くと父親の手を握り締めた。
「ど、どうして……? 何があったの?」
娘の囁きに、ガルシアは口元を歪めて吐き捨てるように呟いた。
「あの若造……、側室を持ったそうだ」
あの若造。ギョームのことだ。フアナは泣き出しそうな顔で父親を見つめた。フアナ自身、ギョームに拒まれたことは心の傷となったが、そのことで父親がガリアを目の敵にしていることにも心苦しい思いをしてきたのだ。
「おまえを拒み、修道女を娶っておきながら側室を持つなど……、男の風上にも置けん!」
「父上……、お願い、落ち着いて……!」
娘の必死の懇願に、ガルシアは大きく息を吐き出した。愛娘フアナを拒絶し、修道女を妻に迎えたギョームが憎かった。その上、クロイツと通じ、反エスタド勢力をまとめ、自分に真正面から立ち向かおうとしていることにも我慢がならなかった。
「世継ぎを得るために側室だと……。さすが〈聖使徒〉だ! 修道女には手を出せんらしい!」
「何か事情があったのでは? そうでなければ、万難を排して迎えた王妃を差し置いて側室を持つなど……」
「おまえは、あんな男を庇うのか!」
「父上……!」
フアナの優しい顔が哀しみで歪む。その表情にガルシアははっとして息を呑んだ。娘の顔が一瞬亡妻に見えたガルシアは、落ち着きを取り戻すために頭を振った。
「……父上、私は政治に関しては口出しいたしません。でも、戦争が起これば多くの民が傷つくでしょう。お願い、よくお考えになって……」
「駄目だ」
ガルシアは搾り出すように呟いた。
「もう決めたのだ。遅かれ早かれ、あの青二才の鼻っ柱を折らねばならん」
怒りで我を見失っている父親には、何を言っても届かない。フアナは不安で一杯の表情で父親を見つめる。
「ガリアの若造と、アングルの田舎娘。それから、目障りなクロイツを今こそ叩いてやる」
ガルシアはバルコニーから中庭へ降り立つと、眩しい初夏の太陽を見上げた。
「世界の頂に立つのは私だ……!」